がんの三大療法

概要

外科療法とは、がんを手術によって切除する治療のことです。手術療法ともいいます。

特徴

がんのサイズが小さく、リンパ節への転移がない場合は、切り取る部分をできるだけ狭い範囲にとどめます。体へのダメージは最小限に抑えられます。
がんが進行していて、ほかの臓器に転移している場合には、がんが発生した部位だけでなく、その周辺の組織やリンパ節も含む広い範囲を取り除きます。そうすることで、がんの再発や転移を防ぎます。
日本では、がん周辺のリンパ節をがんと一緒に切除する「リンパ節郭清」が広く行われています。これによって、がん治療の成績を高めています。

また、早期がんでは内視鏡手術を行うことがあります。内視鏡手術は体を切り開かないため、患者の負担が軽く、回復が早いというメリットがあります。
進行がんについては、手術でがんの主な部分を取り除くとともに、化学療法や放射線療法を組み合わせて治療することもあります。

対象疾患

外科療法は、胃がん・大腸がん・肺がん・乳がん・肝がん・食道がんをはじめ、ほとんどのがんに対して行われます。
ただし、血液のがんである白血病や、全身にがんが転移している場合は原則行いません。

【主ながんの外科手術】

脳腫瘍 患部をすべて摘出することが有効です。しかし、脳の機能を損なわずに、どこまで摘出するべきかという判断が必要となります。最新のコンピューターを活用した技術と最先端の医療機器により、治療成績は向上しています。
また、脳腫瘍や頭頸部がんなどの治療に、サイバーナイフを用いることもあります。
喉頭がん がんの周辺だけを切り取る喉頭部分切除術と、喉頭をすべて切り取る喉頭全摘出術があります。早期がんでは喉頭部分切除術、進行がんでは喉頭全摘出術を行います。
治療は外科療法に加えて、放射線療法も有力です。喉頭全摘出の対象となるケースでも、放射線と化学療法を同時に用いて、喉頭を温存することもあります。
肺がん 手術は早期がんの場合に行います。手術方法には、
1.患部を部分的に切除
2.肺葉を切除
3.片側の肺をすべて切除
があります。リンパ節への転移を確認するため、一般的にはリンパ節も切除します。
原発性肺がん、転移性肺がん、良性肺腫瘍などでは、胸腔鏡手術を行うこともあります。
また、I期非小細胞肺がんについては、重粒子線治療による有効性が報告されています。
乳がん がんとその周囲の正常な組織を切除します。切り取る範囲は、がんの広がり具合によって決めます。わきの下のリンパ節を含む脂肪組織も切除します。
日本では乳房再建術も行われています。これは、手術で失った乳房を患者自身の筋肉や人工物を用いて形成する手術です。
胃がん 手術が最も有効であり、胃と周辺のリンパ節を切り取ります。胃の切除の範囲は、がんの場所や進行の程度によって決めます。
早期の胃がんについては腹腔鏡下胃切除を選択することもあります。
食道がん 手術が最も一般的な治療方法で、がんを含めて食道を切除します。リンパ節を含む周囲の組織も取り除きます。切除後には食べ物が通る道を再建します。
また、内視鏡手術を行う場合もあります。
大腸がん 手術が基本的な治療方法であり、がんのある腸管とリンパ節を切除します。がんが周囲の臓器に転移している場合は、その臓器も切り取ります。
また、進行の程度などによって、腹腔鏡手術を行うこともあります。
肝細胞がん がんとその周囲の組織を取り除きます。単発(1個)で大きながんや、がんが少数で肝臓の機能が維持されている場合には、肝臓を切除します。
また、重粒子線治療による有効性が報告されています。
膵がん がんを含む膵臓と、周囲のリンパ節を切除します。膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵全摘術などがあります。
前立腺がん 前立腺と精嚢を摘出した後、尿道と膀胱をつなぎます。転移を確認するため、一般的にはリンパ節も切除します。
ホルモン剤を用いた化学療法や、放射線療法を選択することもあります。
また、重粒子線治療による有効性が報告されています。
膀胱がん 腰椎麻酔を行って膀胱鏡で見ながら、電気メスでがんを切除する方法(経尿道的膀胱腫瘍切除術)と、全身麻酔を行って膀胱を摘出する方法(膀胱全摘除術)があります。
子宮がん 手術が一般的な治療方法です。がんを切り取るとともに、放射線療法や化学療法の必要性を判断します。手術には単純子宮全摘出術、卵巣・卵管切除術、広汎性子宮全摘出術があります。
がんの進行の程度などによって、腹腔鏡手術を選択することもあります。
卵巣がん がんのタイプや進行の程度によって、治療方法を決めます。手術には卵巣切除、大網切除、後腹膜リンパ節郭清があります。

概要

化学療法とは、抗がん剤やホルモン剤などを投与して、がん細胞を死滅させたり、成長を止めたりする治療方法です。

特徴

外科療法や放射線療法は、一部の臓器だけに発症したがんには有効ですが、全身に散らばったがん細胞には対応できません。
これに対して化学療法は、注射または服用によって、抗がん剤やホルモン剤を体の隅々まで届けます。がん細胞が体中に散らばっている場合でも、全身を治療できます。
また、複数の抗がん剤を組み合わせる併用療法があります。これによって、手術が不可能な進行がんも治療できるようになってきました。
抗がん剤は、主に「細胞障害性抗がん剤」と「分子標的治療薬」に分類されます。

「細胞障害性抗がん剤」には代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗がん性抗生物質、微小管阻害薬などがあります。代謝拮抗剤はがん細胞の増殖を抑え込みます。アルキル化剤はがん細胞の遺伝情報に障害を与えて破壊するなど、薬剤によってメカニズムが異なります。
一方、分子標的治療薬は、がん細胞の特徴を分子レベルでとらえ、標的にして作用します。

化学療法にはホルモン剤を投与する方法もあります。
特徴は、がん細胞を殺すのではなく、がんの成長を止める点にあります。がんの中には、その成長にホルモンを必要とするタイプがあります。そうしたタイプのがんについては、成長を阻害するホルモンを投与することにより、がん細胞の増殖を止めます。

対象疾患

抗がん剤の投与で完治が期待できる 急性白血病・悪性リンパ腫・精巣腫瘍・絨毛がんなど。
抗がん剤の投与で進行を遅らせることが可能 乳がん・卵巣がん・骨髄腫・小細胞肺がん・慢性骨髄性白血病・低悪性度リンパ腫など。
分子標的治療薬が有効 白血病・乳がん・肺がんなど。
ホルモン剤による治療 乳がん・子宮体がん・前立腺がん・甲状腺がん・腎がんなど。

概要

放射線療法とは、がんに放射線を照射して、がん細胞の増殖を抑える治療方法です。
がん治療に用いる放射線には、X線・γ線・電子線をはじめ、陽子線、重粒子線などがあります。

特徴

放射線治療は手術と同じように、がんとその周辺だけを治療します。手術と違う点は、体を切ったり、痛みを感じたりしないことです。
照射された放射線は、がん細胞の遺伝子に直接働きかけます。そして、がん細胞が分裂する能力を弱めたり、がん細胞が自ら死ぬ作用を強めたりして死滅させます。

近年、放射線治療機器やコンピューターの発達によって、がん組織にだけ集中的に放射線を照射し、周囲の正常な組織にはできるだけ照射しない技術が開発されました。この結果、がんを治療できる可能性が高まり、同時に副作用を抑えられるようになりました。

また、放射線治療は手術の前後に行われることがあります。
手術前に放射線治療を行って、手術中にがん細胞が散らばらないようにしたり、手術がしやすいように事前にがんを小さくしたりします。
手術後の放射線治療は、手術で取り除けなかったがん細胞を死滅させるために行います。

対象疾患

完治が期待できる 頭頸部がん・網膜芽細胞腫・悪性リンパ腫・子宮頸がん・肺がん・乳がん・食道がん・前立腺がん・脳腫瘍(成人/小児)・皮膚がんなど。
手術前後に行う 乳がん・頭頸部がん・骨軟部腫瘍・食道がん・肺がんなど。
緩和治療として行う 転移性骨腫瘍や転移性脳腫瘍など。