有識者による医療機関向けコラム 医療機関の国際化

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日本の医療機関のための海外からの外国人患者受け入れポイント vol.12012.11.01

近年、医療のグロバール化が急速に進展しています。これに伴い日本の医療機関の中にも海外からの外国人患者の受入れに取り組まれる医療機関が増えてきています。しかし、当然のことながら、海外から患者を受入れる場合には、国内の患者を受入れるのとはまったく別の手続きや配慮が必要となってきます。
そこで、以下では、海外から外国人患者を受入れる場合の基本的な手続きの流れや留意点について説明していきたいと思います。なお、一口に手続きや留意点といっても、人間ドックやPET検診等、いわゆる健康な外国人患者の方を受入れる場合と治療や手術を必要とする外国人患者の方を受入れる場合では当然その内容も大きく変わってきます。また、外部の事業者を活用するか否かでも変わってきますが、ここでは「基本形」ともいえる、「医療機関が外部事業者をあまり利用せず、基本的には自院の職員だけ海外から治療が必要な患者を受入れる場合」の手続きと留意点について説明していきたいと思います。

1.受け入れ体制の整備
海外から外国人患者を受入れる際には、医療機関にも一定の整備が必要となってきます。具体的には、以下のような受け入れ体制の整備が必要となってくるものと考えられます。

(1)海外からの外国人患者の受入れに関する基本方針の策定
一口に海外から外国人患者を受入れるといっても、海外から訪れた外国人患者に対してどのようなサービスを提供するのか、また、そもそもどの国の患者を対象とするのか等によって、病院に求められる体制づくりは異なってきます。また、海外から外国人患者を受入れるとなると、どのような形であっても多かれ少なかれ現場職員の負担が増すことになります。
ですので、貴院で海外から外国人患者の受入れを開始することを決めたのであれば、まずは貴院における海外からの外国人患者の受入れに関する基本方針・理念を明確にしておきましょう。具体的には、少なくとも以下の点については貴院の基本方針を策定し、職員の方々にも理解しておいてもらうことをお勧めします。

明確にすべき基本方針・理念
①何故貴院では海外からの外国人患者の受入れに取り組むのか
(例えば、国際貢献を目的としているのか、それとも稼働率向上や新たな収入源の確保という経済的理由か、あるいは職員の資質の向上や日本では将来高齢化に伴い急性期患者が減少することが予測されることからそれに対する新たなマーケットの開拓なのか等)
②上記①を実現するための短期、中長期プランの策定
(本コーナーでも今後詳しく説明していきますが、海外からの外国人患者の受入れに関しては、医療機関として実施すべき国際的ルールというものが確立しつつあります。ですので、この短期・中長期プランを立てる際には、そのような国際的なルールも踏まえた上で、上記①の自院の目標とあわせて、現在の自院にはどのような体制や能力が欠け、今後それをどのように充足していくのかという視点から検討していくことが非常に重要になってくるといえるでしょう。)
③どのような健診・医療サービスを提供するのか
④年間若しくは月に何人ぐらいの海外からの外国人患者の受入れを行うのか
⑤国内の患者とのバランスについてはどのように考えていくのか
(例えば、海外から外国人患者を受入れることによって国内の日本人患者の待ち時間が延びることはないようにするのか否か等)
⑥価格についてはどのくらいに設定するのか
⑦外部事業者を活用するのか否か、活用するのであればどの範囲か、等

(2)担当者ならびに担当専門部署の設置
海外から外国人患者を受入れる場合には、海外からの外国人患者や保険会社からの問い合わせへの対応のほか、通訳業務や診療情報の翻訳作業、担当部署間の連絡調整等、様々な業務が発生します。そのため、これらの業務の担当者や責任の所在を明らかにしておくためにも、海外から外国人患者の受入れを行う際には、担当者若しくは担当部署を院内に設置しておきましょう。

(3)通訳体制の整備
上記の担当者や担当部署の設置とも深く関係しますが、海外から外国人患者を受入れる際には、日本語が話せない外国人患者の受入れに備えて、一定の通訳体制を整えておきましょう。なお、この通訳者についてですが、日本人患者と外国人患者では、「痛み」に対する表現一つでも、その表現方法の表現の度合いは変わってきます。ですので、たとえば、医療機関で外部の通訳者を利用する際には、単に医学用語や医学の知識の有無だけではなく、その患者の出身国の国民性や医療文化の違いも熟知した通訳者を採用することをお勧めします。
なお、医療機関が外部の通訳者を利用する場合、医療通訳者は時給が高いので、人間ドックで医師の診断が入っていないメニューの場合には、一般の通訳者を利用しているところ多いかと思います。しかし、日本で人間ドックPET検診等の健診サービスを受ける外国人患者の中には、自国の病院や医師を信用しておらず、日本の医師と直接話すことを一番の目的にして健診サービスを受ける方も少なくありません。ですので、医療通訳者と一般の通訳者を上手に使い分けることは、コスト削減の観点から言えば非常に有意義ですが、それによって患者のニーズと乖離することがないように十分気を付けてください。

<続>



岡村 世里奈
国際医療福祉大大学院 医療経営管理分野 准教授。上智大法学部卒業。上智大大学院法律学研究科博士課程前期修了後、国際医療福祉大医療経営管理学科助手、The Beazley Institute forHealth Law and Policy, School of Law, Loyola University ofChicagoの客員研究員等を経て現職。数年前から国内外の国際医療交流事業研究に携わる。関連著作物としては、「平成21年度財団生産性本部 サービスイノベーションを通じた生産性向上に関する支援事業・サービス(医療)ツーリズム等医療の国際化に向けた利用の品質確保に必要なケーススタディ報告書」(2010年3月)、「平成22年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)国際医療交流(外国人患者の受入れ)への対応に関する研究報告書」(11年3月)、「平成23年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)医療の国際化に関する国内医療機関の課題の明確化と国際情勢の把握研究報告書」(12年3月)等がある。