有識者による医療機関向けコラム 医療機関の国際化

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日本の医療機関のための海外からの外国人患者受け入れポイント vol.22012.12.01

(4)施設環境の整備
海外から外国人患者を受入れる際には、施設環境の整備も大切になってきます。たとえば、海外からやってきた外国人患者が慣れない環境でも安心して過ごせるように、また言語に伴うトラブルを防止するためにも、院内の主なサインは日本語のほか、英語や対象患者の出身国の言語で表示するようにしましょう。また、ベッド、車椅子、手術台等の各種施設設備についても、外国人患者に合わせて用意する必要がある場合もあります(例えば、日本の手術台の耐用重量は160kg。外国人患者向けにはもっと重くても大丈夫なものにしなければならない)。さらに、プライバシーを重視する外国人患者の場合には個室が必須であるし、イスラム教の外国人患者の場合には、お祈り用のスペースを確保しておく必要も出てきます。
このように、外国人患者の受入れを行う際には、受け入れる患者の特徴や文化、国民性に十分留意して施設環境の整備を進めていくことが大事になってきますので、是非貴院でも検討してみてください。
なお、日本の医療機関を受診した外国人患者の方にインタビューを行うと、「医療サービスもスタッフの方も最高だったが、病室にインターネット環境が整っていなかったり、TVが日本語ばかりで母国の様子をまったく知ることができなかったりしたのが不安だった。」という声をよく聞きます。短期間の滞在や入院の場合には仕方ないかもしれませんが、長期入院の外国人患者の受入れをお考えの医療機関の方は、是非この点についてもご検討いただければと思います。

(5)契約書や同意書等の必要書類の整備
図1 ロシア語・日本語併記医療契約書の一部
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海外から外国人患者を受入れる際には、契約書や同意書等の必要書類の準備も重要になってきます。例えば、通常、造影剤を用いたCT 検査を受ける患者には、当該検査の内容について書いた「説明書」や「注意事項説明書」、「同意書」等を用意していらっしゃると思いますが、これらは日本語で書かれていて、海外の患者には理解することができません。そのため、必要書類に関しては、外国人患者でも理解できるように、必ず翻訳版を用意しておきましょう。なお、必要類を準備する際には、患者や現場のスタッフが利用しやすいように、図1,2 のように、日本語・外国語の併記版にしたり、写真を用いたりするなど、各医療機関でいろいろ工夫されてみると良いでしょう。

(6)WEBサイトや問い合わせ窓口の整備
図2 写真を用いた日本語・ロシア語併記の処方薬説明書
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海外の医療機関を受診することを考えている患者の多くは、その医療機関を選考する際に必ずその医療機関のHPをチェックして、医療サービスの内容や診療手続きについて調べています。また、現在世界各国では、海外の医療機関を受診することを考えている患者のための本が何十冊も発行されていますが、これらの本の中でも、医療機関を選択する際には医療機関のHPを見て情報収集を行い、不明な点については、直接医療機関にコンタクトして確認することを勧めています。
ですので、貴院において海外から外国人患者の受入れを開始しようとするのであれば、その対象患者の言語を用いたWEBサイトを用意しましょう。WEBサイトが充実していればそれだけで立派なプロモーションになりますし、また些細な問い合わせを減らすこともできます。なお、WEBサイトに載せる情報ですが、海外からの外国人患者の受入れに取り組んでいる海外の医療機関では一般に表1のような情報をWEBサイトに載せています。

表1 海外の医療機関における外国人患者誘致向けのHP記載情報一覧
内容 具体的な項目&ポイント
1.病院の概要 沿革や基本理念、診療科目、設備、交通アクセス、問い合わせ窓口、プライバシーポリシー等
2.診療内容 詳しい診療内容については、基本的には患者から問い合わせがあった時に説明すればよいが、海外の患者向けに特に力を入れている健診・医療サービスがあるのであれば、その内容についえはホームページ上でも詳しく説明しておいた方がよい。なお、海外の患者や斡旋事業者の中には、かなり詳細なデータを要求してくるところも少なくないので、健診や医療サービスの内容だけではなく、それに関連する客観的データ等も合わせて掲載しておくとよいであろう。
3.診療案内 患者にとって海外の医療機関を受診することは非常に不安なことでもある。患者のこうした不安を軽減するためにも、自院で、健診やセカンドオピニオン、治療等を希望する場合には、最初にどこに問い合わせればよいのか、また、その後どのような手続きを踏めばよいのか、全体の流れについて分かりやすく説明しておくとよい。
4.医師に関する情報 海外の患者や斡旋事業者が医療機関を選択する際に特に重視しているのが、その医療機関にはどのような医師がいるかということである。そのため、ホームページにも医師に関する情報は詳しく掲載しておくとよい。なお、ここでいう「医師に関する情報」としては、教育歴や経験、資格、専門分野、国内外の所属学会、対応可能外国語等が挙げられる。
5.「価格」に関する情報 「価格」も海外の患者にとっては医療機関を選択する際の大きな評価材料となっており、価格に関する情報も可能な限りホームページに掲載しておくとよいであろう。なお、価格に関する情報を掲載する際には、医療内容に関する価格だけではなく、個室代や食費等、付加的にかかるコストに関する情報もあわせて提示しておくとよい。
6.医療費の支払い方法に関する情報 海外からの患者にとっては、医療費の支払い方法がどのようになっているかということも非常に気になるところである。そのため、①現金払い、②クレジットカード払い、③海外の民間医療保険による支払いのそれぞれの場合について、その詳しい内容や手続きについても紹介しておくとよいであろう。
7.各種認証制度の取得状況に関する情報 患者や斡旋会社、保険会社等が海外の医療機関の医療の質や安全性をはかる大きな目安の一つとしているのが、国内外の各種認証制度の取得状況である。もっとも、国内の認証制度は国によってそのレベルが大きく違うことからその信用性は必ずしも高くなく、国際的には、国際認証制度の方が圧倒的に高く評価される傾向がある。しかし、いずれにせよ、自院でJCIやISO等の国際認証を取得している際はもちろんのこと、国内の認証制度でも取得している場合には、その情報についてもきちんと掲載しておくことが望ましい。
8.外国人患者に対する自院のサービス内容や受け入れ状況に関する情報 海外からの患者を対象とした自院の受け入れ体制に関する情報も詳しく掲載しておくとよいであろう。例えば、対応可能な外国語は何か、また、院内で外国語が話せる職員による通訳や施設案内、各種の連絡や相談対応を行っているかどどうか等についてである。また、自院の受け入れ状況を理解してもらうためには、国別の受け入れ実績等の情報を提示しておいてもよいであろう。
9.患者体験記 患者の体験記を掲載することは、患者視点で自院を紹介するうえで非常に有効な方法である。実際、海外の医療機関でも、患者の体験記は、文書だけではなく、動画等も用いてかなり積極的に紹介されている。
10.提携先に関する情報 自院で提携している国内外の医療保険会社や斡旋会社がある場合には、それらの提携先の情報も掲載しておくとよい。
11.ビザに関する情報 海外の患者の中には、日本で健診や医療サービスを受けるためにはビザが必要となる場合も少なくない。そのため、ビザ取得に関する情報や、自院でビザ取得支援サービスを行っているのであれば、その情報もあわせて掲載しておくとよい。
12.宿泊先に関する情報 海外の患者の中には、家族同伴でくる場合も少なくない。そして、この場合、同伴家族は宿泊先を探す必要が出てくる。そのため、自院で提携しているホテルや旅館がある場合にはその情報を、提携しているホテルや旅館がない場合でも、自院への通院に便利なホテルや旅館の情報を提供しておくとよいだろう。
13.日本に関する情報 必ずしも必須というわけではないが、日本に関する情報、例えば、気候や通貨、クレジットカードの普及状況、チップの有無、飲料水、電圧、インターネットの使用状況等の情報も提供しておくと、海外の患者にとっては役に立つであろう。
14.その他 上記のほか、自院に対する理解を深めてもらうためには、病院紹介動画、ニュースレター等も積極的に活用していくとよいだろう。

(7)外国人患者の出身国の医療分野や医療習慣に関して基本的な知識を身につけておく。
一口に「医療」と言っても、国によって医療文化や医療習慣、医療に対する考え方等は大きく異なります。そのため、日本の医療機関が実際に海外から外国人患者の受入れを行う際、最も苦労するのが、この医療文化や医療習慣、医療に対する考え方の違いに伴うトラブルです。
例えば、中国では病院内で静かにするという習慣がないため、中国人の方が日本の医療機関を受診する際に大きな声でしゃべって、日本人患者の方が驚かれたり、トラブルにつながったりするケースがよく報告されています。もし日本の医療機関の方で中国の方は病院でも静かにする習慣がないということが分かっていれば、事前に、「日本の医療機関では院内では静かにするルールになっていますので、気を付けてくださいね。」とお伝えしてトラブルを避けることができたでしょう。
これはあくまでも一例にすぎず、これ以外にも、医療文化や医療習慣、医療に対する考え方の違いが原因でトラブルになってしまうケースは多数報告されています。ですので、これらのトラブルを防止するためにも、そして何よりも海外から来られた外国人患者の受入れを円滑に行うためにも、貴院で海外からの外国人患者の受入れを行う際には、当該患者の出身国の医療分野や医療習慣、医療に対する考え方について、院内で研修会を開催するなどして勉強されていると良いでしょう。

<続>



岡村 世里奈
国際医療福祉大大学院 医療経営管理分野 准教授。上智大法学部卒業。上智大大学院法律学研究科博士課程前期修了後、国際医療福祉大医療経営管理学科助手、The Beazley Institute forHealth Law and Policy, School of Law, Loyola University ofChicagoの客員研究員等を経て現職。数年前から国内外の国際医療交流事業研究に携わる。関連著作物としては、「平成21年度財団生産性本部 サービスイノベーションを通じた生産性向上に関する支援事業・サービス(医療)ツーリズム等医療の国際化に向けた利用の品質確保に必要なケーススタディ報告書」(2010年3月)、「平成22年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)国際医療交流(外国人患者の受入れ)への対応に関する研究報告書」(11年3月)、「平成23年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)医療の国際化に関する国内医療機関の課題の明確化と国際情勢の把握研究報告書」(12年3月)等がある。