有識者による医療機関向けコラム 医療機関の国際化

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日本の医療機関のための海外からの外国人患者受け入れポイント vol.42013.02.01

(3)来院準備
事前コンサルテーションの結果、外国人患者の方の受診が正式に決まったら、次に医療機関で行うことになるのが「来院準備」です。この来院準備として具体的にどのような事を行うかはそれぞれの医療機関で提供しようとしているサービスの種類や内容によって異なってきますが、一般的には、「渡航に必要な書類の準備」、「来院日の打ち合わせ・決定」、「来院・入院案内情報の提供」、「当該患者の固有の希望やニーズの把握」、「医療費の支払いに関する確認・準備」等をこの段階で行うことになります。
中でも特に重要となるのが「医療費の支払いに関する確認・準備」です。なぜなら、海外からやってこられる外国人患者の医療費の支払い方法としては、現金やクレジットカード、民間の医療保険会社等様々な方法があり、また医療費の支払いに関する意識そのものが日本人とは異なることから、日本の医療機関が海外から外国人患者の受入れを行う際、最もトラブルにつながりやすいことの1つがこの医療費の支払いに関する問題だからです。以下の表では、実際に日本の医療機関が経験した医療費の支払いに関するトラブルの内容とその防止策を載せていますので、どうぞ参考にしてください。
支払方法 主なトラブル 防止策
2.現金払い ・患者に支払能力がなく、未収金が発生してしまった。 ・預貯金の残高証明書のコピーの提出を求める。
・事前コンサルテーションで提示した医療費の見積額を全額事前に支払ってもらい、差額が発生した場合には、退院時に返金したり、追加で支払ってもらったりする。
・事前コンサルテーションで提示した医療費の見積額の一定割合を事前に支払ってもらい、残りは退院時に支払ってもらう。
・事前に分割払いの計画を立てておく。
2.民間の医療保険会社 ・保険会社から、
「事前許可
(pre authorization)」を取っていないため支払うことはできないと言われてしまった。
・海外、特にアメリカの民間医療保険会社では、治療や手術を行う際には、緊急の場合を除いて、「事前許可」を必要とするところが多い。そのため、このような場合には、必ず、「事前許可」を取っておく
・保険会社から、提供した治療や手術、処方薬は保険の対象外であるとして、支払いを断られた。 ・保険の種類や患者の支払っている保険金額によって、カバーされる治療や手術、処方薬の範囲は様々である。そのため、外国人患者に対して特定の治療や手術を行う際には、当該医療行為がカバーされる範囲内であるかどうかあらかじめ確認しておく。
・保険会社に医療費の支払いを請求したところ、在院日数が長すぎる、余計な検査を行っている等と様々なクレームがつけられ、なかなかなか医療費を支払ってもらえなかった。 ・海外の医療保険会社の中には、事前に、許可やカバー範囲の確認をしていたとしても、実際の支払い段階になって、細かなクレームをつけてくるところが少なくない。そのため、医療機関としては、クレームがつけられて戸惑うことがないように、行った医療行為に対してはいつでもきちんと説明ができるように準備しておく。
・患者に自己負担分を請求したが、お金がなくて払えないと言われてしまった。 ・高額な治療や手術等を行った場合には、患者の自己負担分だけでも大きな額になってしまう。そのため、患者に自己負担分を請求する必要がある場合には、「現金払い」の時のように、あらかじめ預貯金の残高証明書のコピーの提出を求めたり、支払額の一部を事前に払ってもらっておいたりするようにする。
・「事前許可」を取っていなかったため、保険会社から支払わられなかった医療費を患者に請求したところ、患者から医療保険で払うつもりであったため、現金の余裕はないと言われてしまった。 ・一応、医療保険で支払いを行うことになっても、何らかの理由により、保険会社から医療費の支払いが行われなかった場合には、当該医療費の支払い責任は患者にあることを、きちんとあらかじめ患者に伝えておく。
3.クレジットカード ・自院で利用可能なクレジットカード会社ではなかった。 ・患者がクレジットカードで医療費の支払いを行う場合には、自院で利用可能なクレジットカード会社をあらかじめ患者に伝えておく
・医療費が患者のクレジットカード上限利用額を超えており、決済することができなかった。 ・あらかじめ、患者に、クレジットカードの上限利用限度額を確認してもらっておく。
4.共通 ・手術後に合併症を発症し、その検査や治療のために、当初の見積額よりも医療費が20%以上高くなってしまった。そこで、その部分の支払いを患者に求めたところ、そのような話は聞いていないといって支払いを拒否された。 ・事前コンサルテーションにおいて医療費の見積書を患者に渡したり、来院前に医療費の最終確認を行ったりする際には、治療や手術の経過によっては追加の治療や手術が必要となり、その場合にはどれくらいの医療費がかかるのかということをきちんと患者に納得してもらっておく。
・合併症の治療等、当初予定していなかった検査や治療を行う際には、必ず、その旨を患者に伝え、患者の支払い意思を確認してから、当該検査や治療を行うようにする。



岡村 世里奈
国際医療福祉大大学院 医療経営管理分野 准教授。上智大法学部卒業。上智大大学院法律学研究科博士課程前期修了後、国際医療福祉大医療経営管理学科助手、The Beazley Institute forHealth Law and Policy, School of Law, Loyola University ofChicagoの客員研究員等を経て現職。数年前から国内外の国際医療交流事業研究に携わる。関連著作物としては、「平成21年度財団生産性本部 サービスイノベーションを通じた生産性向上に関する支援事業・サービス(医療)ツーリズム等医療の国際化に向けた利用の品質確保に必要なケーススタディ報告書」(2010年3月)、「平成22年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)国際医療交流(外国人患者の受入れ)への対応に関する研究報告書」(11年3月)、「平成23年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)医療の国際化に関する国内医療機関の課題の明確化と国際情勢の把握研究報告書」(12年3月)等がある。